伝染性謬見

ところで、この手の本の類書としてはバージン・エヴァンス『ナンセンスの博物誌』や「トンデモ本」シリーズなどがあるが、その遥かな先輩は17世紀に出たトマス・ブラウンの『伝染性謬見』と称する大著であろう。なんとこの本にはフランス語訳がある。

Pseudodoxia epidemica ou examen de nombreuses idees recues et de verites generalement admises

Pseudodoxia epidemica ou examen de nombreuses idees recues et de verites generalement admises

この仏訳が澁澤龍彦の生前に出なかったのが惜しまれる。ブラウンの『壷葬論』を愛し、プリニウスを愛した澁澤なら、きっとこの本にも夢中になったに違いなかろうから。(澁澤が『伝染性謬見』に触れているのは、おそらく南方熊楠に関するあるエッセイの中だけで、それも現物には目を通していないような書きぶりだった。)
日本は翻訳大国と言われ、確かにある種の分野(ミステリとか)ではそれも正しいのかもしれないが、全体的に言えばフランスの後塵を拝しているのではないか。何しろかの国にはバートン『憂鬱症の解剖』の完訳まであるのだ。(日本にも部分訳ならある)

Anatomie de la mélancolie t.2 (édition 2004)

Anatomie de la mélancolie t.2 (édition 2004)

日本でも『伝染性謬見』や『憂鬱症の解剖』の完訳を志す無謀な人は出てこないものだろうか。(個人的には高山宏氏にお願いしたいと思う