独仏幻想ミステリ逍遙(2)モーリス・ルナール『?彼?』

puhipuhi2005-04-21


モーリス・ルナール(1875-1939)はJ-H・ロニーと並び戦前フランスの幻想的SFを代表する作家である、とシュネーデルの「フランス幻想文学史」では位置付けられているが、ミステリと称して差し支えない作品も何作か書いている。

中でもこの「?彼?」(1927)などは、密室を取り扱っているし、作中に現場の見取り図(右図参照)もあるしで、いままで読んだ中では、もっとも本格ミステリに近い作品だ。"The Snake of Luvercy"というタイトルで英訳も出ている。(この英訳はROMのM.K.氏の私家本「ある中毒患者の告白〜ミステリ中毒編」でも取り上げられていたと思うが、発掘しても出てこなかったため、今のところ確認不能)

プラス伯爵夫人は、被後見人のジルベルトから結婚の意向を打ち明けられて内心狼狽していた。というのも彼女には、ジルベルトを自分のドラ息子リオネルと結婚させ、その財産を息子のものにしようという計略があったからだ。ジルベルトの父親は探検家だったが、彼が自宅に持ち帰った毒蛇のため、彼の妻(ジルベルトの母)は非業の最期を遂げたと言われていた。そしてそれを果敢なんで彼自身も亡くなってしまう。こうして孤児となったジルベルトの、後見人である母方の叔母のプラス伯爵夫人と共に暮らすことになったのだ。

ジルベルトが結婚しようとしているジャン・マルーユは非の打ちどころのない青年紳士であった。しかし、この結婚を破談にさせようと企むプラス母子は、なんとかジャンの弱みを握ろうと、かっての召使オーブリに命じて彼の身辺を探らせる。ある夜、ジャンの屋敷を張っていたリオネルとオーブリは驚くべき光景を目撃する。変装はしているもののジャンとしか思われない男が、深夜ひそかに屋敷を抜け出し怪しげな酒場に入り、そこで笛を吹き、蛇使いの芸を見せ始めたのだ!(下のイラストはその蛇使いの場面。いまこれを読む人はこのシーンで絶対失笑すると思うw)

独創的なトリックとかフェアな伏線とかを期待すると完全に裏切られるが、佐野洋的なストーリー展開の妙(読者を引っ張ってきた一番の謎が最後で巧妙にはぐらかされ、脇筋と思われたものが突然終盤にクローズアップされるという、このはぐらかし方が実に佐野洋である)と、フランス軽演劇(クゥ・トリーヌとか)の残り香をかぐようなシーンの連続を味わうだけでも一読の価値はあるようなないような……。ちなみに英訳は村崎敏郎的直訳なので、この英訳だけで作品の価値を判断するのはいかがなものかと……(自分は独訳で読んだ)