聖ツェツィーリエ、あるいは音楽の力(違)

 
「ミステリ作家」クラニーの健在を示す傑作。
おなじみのゴーストハンターと黒川のコンビはここでは女子大生二人に化身して狂言回しをつとめる(両性具有……) いやあ、しかし、まんまと騙されました。
「星降り山荘」のように、各楽章の頭の短文には全部本当のことが書いてある。書いてはあるのだが…「星降り山荘」で騙された拙豚はここでもまた騙された。いったい何度同じ手にひっかかったら気がすむのか。
読後あらためてパラパラめくると、あからさまなヒントが爆弾のようにあちこちに埋め込まれているので驚く(指揮者がヴァイオリンを奏でるというのも含めて)。その意味では実に本格しています。
一番唸ったのは、えーと、「Yの悲劇」で言えば、ハッター一族の病歴を一覧にしたカルテの中でとんでもない手がかりが提出されていたでしょう……あれと同じ手をある章で使っているのです。あそこをよく見ておけば犯人は実は一人に特定できてしまう。ちょうど「Yの悲劇」のカルテみたいに。

どうもミステリだとネタバレなしには肝心なことが書けないので不便なり。