『怪奇礼讃』

相変らずポツポツと読み続けています。こういう本を一時に読むのはもったいなさすぎる。

先に同じ版元から出た『怪談の悦び』が燦めくマスターピースばかりを集めた宝石箱だとすれば、この「怪奇礼賛」は、どこかの修道院からでも発掘された古文書の抜書きのような気がする。つまり、集中の諸短編が(文体も含めて)一種不思議な均一性を保っていて、前の短編の余韻を次の短編が引きずっていくような味わいを持っている。いわゆるアンソロジー・ピースを排している点といい、周到な作品選択に敬意を表したい。

集中のエイドリアン・アリントン「溺れた婦人」は、以前都筑道夫が「黄色い部屋はいかに…」で紹介していた。あの紹介文を読んだときには傑作のように思われたが、現物に接するとそれほどでもない。描写がくどすぎて行間から恐怖が立ちのぼってこない。傑作の幻影は都筑道夫の文章のマジックだった。