『アンチクリストの誕生』(レオ・ペルッツ)  ISBN:3552047174


単行本で60ページほどの中編である。舞台は1742年のシシリア。信心深い靴職人がクリスマス・イブに面妖な夢を見る。気になった彼が聖書学者にお伺いを立てると、なんと、その夢は、世界の終末に出現するアンチクリストの誕生を告げていると言うではないか――言わば「ローズマリーの赤ちゃん」の18世紀版である。(もっともバーナード・マッギンの「アンチキリスト」ISBN:4309223346るように、アンチクリストはあくまで生身の人間であり、悪魔とかそういう超自然の存在ではない)
『第三の魔弾』と共通する、世界の豊穣さを歌い上げるようなバロック趣味も楽しいが、全体の筋立てにはペルッツの大衆小説作家としての腕が遺憾なく発揮されている。特に最後の三分の一は佐野洋ばりのツイストが炸裂し、前段の伏線を生かしつつ二転三転する展開は「おお、そう来るのか」「今度はこう来たか」「いったいどうなるのだ」の連続で、あげくの果てに静謐なエンディングを迎えると思いきや、最後の一ページで予想もしなかった落ちが待っている。
読後は種村季弘の某著作と(あえて「某著作」と言うのは書名を書くとある意味ネタバレになるから)照らし合わせてみると色々発見することもあろうと思う。


(以前にもお知らせしましたが、これの翻訳を冬コミに出せそうなので、興味のあるかたはおいでくださると嬉しいです。翻訳にはウィーンRikola Verlag版(1921)の挿絵約20枚を全点収録の予定。)