『死が招く』(ポール・アルテ)ISBN:4150017328


「この小説を読み終わったら、どんな人でも絶対にアルテ・ファンになっているだろう」と本書の帯に書いてあった。では拙豚も、これを読んだらアルテファンになるのだろうか、と思って読んでみました。ちなみに先に出た「第四の扉」ISBN:4150017166
結論から言うとアルテファンにはなれなかった。ディクスン・カーがもし生きていてこれを読んだら怒り狂って破門にするのではないかと思う。まず文章が、筋を説明するためだけの文章であり、あまり小説を読んでいるような気分になれない。誰かがリライトしたあらすじを読んでいるような感じである。カーの悠然たる語りとは対極的。
あとプロットにも無茶がありすぎだと思う。書斎の中でピストルが発射されたり、錠前が破壊されたりしているのに、邸内の誰もそれに気がつかないなんてことがあり得るのか? 執事までいる館なのに?
それから犯人が堂々と邸内に出たり入ったりしても邸内の誰も気付かないなんてことも? 郵便配達夫でもないのに!
あと、現場はそもそも密室なのか?という根本的な疑問もある。本書p.179には「そして窓から外に出て玄関ホールにまわり、ドアを破ったのです」と書いてある。つまり死体発見の直前には犯行現場の窓は鍵が掛かっていなかったのだ。
メインプロットではないが、「Yの悲劇」のバリエーションみたいな手を使っているのがちょっと面白かった。つまり第三者の書いた筋書きに、実行者があまりに忠実に従ったため、奇妙な手がかりが残ってしまうというもの。全体としては、カーで言えば「アラビアンナイトの殺人」ISBN:4488118062か? もっとも拙豚が「アラビアンナイトの殺人」を読んだのは20年以上前なので、全然記憶違いかもしれないけれど。