『聖ペテロの雪』(レオ・ペルッツ) ISBN:1559700831


ペルッツの現代ものの最高傑作。この作品は天衣無縫というか、とにかく縫い目が見えない。そして恐ろしい緊迫感で物語が前へ前へと進んでいき、途中で本を置くことは難しい。
物語は内科医アムベルクが病院で目覚めるところから始まる。最初、彼の記憶はうまく戻らず、自分がなぜここにいるのか分からない。看護婦は言う「あなたは5週間も意識を失ってらっしゃったんですよ」「5週間? でも今日は何日?」「1932年3月2日ですわ」
5週間も病院で寝ていたはずはない。ここに入院していたのは5日間のはずだ。なぜなら6日前にあった出来事は覚えているから。それにしても、どうして看護婦はこんな見え透いた嘘をつくのだろう?
診察に来た医者は言う「あなたは5週間前に、ここオスナブリュックにいた。交差点であなたはいきなり放心したように立ち尽くした」「そうです」アムベルクもそれは覚えていた。「緑のキャデラックを見たのです」医者は言う「そこであなたは車に轢かれ、ここに担ぎこまれたのです」
しかしアムベルクの記憶は異なっていた。彼は車なぞに轢かれることなく駅に着き、そこから汽車で小村モルヴェーデに赴いたはずだ。亡父の旧友フォン・マルヒン男爵のつてで、そこの村医者になる予定だったのだ。このように、なんとなく久生十蘭『予言』ISBN:4380705285ソードでこの作品は始まる。ここで福助にあたるのは緑のキャデラックである。
(アムベルクの記憶では)モルヴェーデに到着するとすぐに、アムベルクは年の頃12,3の少女、男爵の一人娘エルシーの診察を命ぜられた。彼が病室に行くと、一人の大人びた少年が少女を慰めるためにヴァイオリンを弾いていた。アムベルクは少年の年に似合わぬ横柄な態度に圧倒される。少年の名はフェデリコと言い、北イタリアの貧しい職人の息子だったが、男爵に養子として引き取られ、あらゆる高等教育を受けているところであった。
ところでフォン・マルヒン男爵にはひそかな野望があった。○○○○○○を現代に○○させることである。少年フェデリコこそは何を隠そう、男爵が八方捜して見つけてきた○○○○○○○○○の○○○○○○○○○、すなわち○○○○○○○○○○であったのだ。
同時に男爵は、○○○○○○○には、現代に○○○○○○○を復活させることが必要不可欠と確信していた。彼は○○○○○○○○○○○は○○○○○○○○○○○○○○○○○○○であることを突き止めていた。男爵によればヨーロッパのあらゆる○○○○はこの○○○○○で起こったのだという。そして○○に○○らしい○○が発生しなかったのは、○○○○○○○○○○を食べていたからと男爵は主張する。そして男爵はついにこの問題の○○○○○○○○○○することに成功した! 

とにかく死ぬほど面白い。そして『夜毎に石の橋の下で』と同じテーマ、夢と現実と愛情との交感が、ここに通奏低音として流れていたことに読者は最後の章で気付き感動するであろう。そう、これはペルッツのあのもう一つの傑作『夜毎に石の橋の下で』と相似形をなす作品でもあるのだ。そしてそれはもしかしたら『オーレリア』ISBN:4480770267もしれない。

【2015/8/26 ネタバレ防止のため一部伏字化】