『九時から九時まで』(レオ・ペルッツ) ISBN:3426032058


よい機会なのでこれからペルッツの未読作品をつぶしていこうと思った。なにしろ外国語の本というのは、少しでも気の向いたときに読んでおかないと、一生本棚の肥やしとなってしまうから。
その第一弾として、『九時から九時まで』をLily Loreによる英訳で読んだ(Viking Press,1926)。この長編サスペンス小説は、かって『密室』ISBN:4334734588たこともあるらしい。主人公は謎めいた行動をとるウィーンの若者スタニスラウス・デンバである。彼は、軽食店でせっかく注文した朝食を食べようとしないし、公園のベンチで食べかけのサンドイッチが犬に食われそうになっても、犬を追い払おうとしない。ここらへんのとりとめのない奇妙な雰囲気は、ほぼ同時代のウィーンを舞台とした『特性のない男』ISBN:4879841404『夢遊の人々』、あるいはフロイト『夢判断』ISBN:4102038035があるようで興味深かった。
しかし、その奇妙な行動の理由は物語のちょうど半ばで説明される。この手法はちょっとレーモン・ルーセルの『アフリカの印象』ISBN:4560047340い。
しかし全体としてはプロットが不自然すぎて、傑作とは言いかねると思う。例えばなぜ彼は女友達のステッフィと一緒に行動しないのか、とか、ベンチの犬のときに使った言い訳をなぜ他の人々にも使わないのかとか…。ペルッツの作品群をABCで評価すると、たぶんこれはCでせう。80年代の終わりから90年代半ばにかけて、ペルッツの長編は8作ばかりイギリスで翻訳出版されているが、その中にこの『九時から九時まで』が入っていないのもむべなるかなという感じである。