『句集 魑魅』(倉阪鬼一郎) 邑書林 ISBN:4897093902


倉阪氏の第三句集。俳句にはまったくの門外漢の拙豚は、これを評するなんておこがましい真似はとてもできないので、代わりに好きな句を書き出してみるなり

皿見れば皿思い出す薄暑かな
竹夫人いつしか玉となりにけり
春の果て紐一本のいのちかな
大海を知らずいつもの夏座敷
ふくわらひ左の耳を中央に

特に「春の果て…」が凄く(・∀・)イイ! あたかもマリオ・プラーツの本の挿絵にあるようなエンブレムの趣きなり。h音を重ねた前半や、上五から中七にかけてa音がi音に交代していく響きには人を別世界へとらっする力あり。こういう句をホームページにさらりと書いてしまう倉阪氏はやはり天才というものかもしれぬ(゜(○○)゜) プヒ
「大海を…」の句は虫太郎「紅毛傾城」の出だしを連想させるなり。

 四月このかた、薬餌から離れられず、そうでなくてさえも、夏には人一倍弱いのであるが、この夏私は、暑気が募るにしたがって、折ふし奇怪な感覚に悩まされることが多くなった。(中略)
 しかし、そうした折には、家人に命じて庭先に火を焚かせ、それに不用な雑書類などを投げ入れるのである。(中略)
 そのようにして私は、真夏の白昼舌のような火焔を作り、揺らぎのぼる陽炎に打ち震える、夏菊の長い茎などを見やっては、とくりともなく、海の幻想に浸るのが常であった。
 ところが、ある一日のこと、ふとその焔のなかで、のたうち廻る、一匹の鯨を眼に止めたのである。