『評伝ピエール・ルイス エロスの祭司』

  
数年前、曽根元吉氏が逝去されたすぐ後、蔵書の一部が古本屋に流れたことがあった。懐の許す限り買いあさったが、その中にピエール・ルイス関連書が結構あって、以来この作家には一方ならぬ親しみを感じている。惜しくも中絶した奢覇都館の作品集も生田氏の彫りの深い訳文が印象的だった。いま沓掛良彦氏による評伝が出版さる。あに読まざるべけんや。

ルイスの波乱に富んだ生涯を物語る沓掛氏の平明・快調な文章は、いったん読み始めるとなかなか途中で止められず、今日のような鬱陶しい雨の日の読み物としてこれを超えるものはなかなかない。

かくの如く、この本は読者を至福の読書時間に誘う好著だけれど、欲を言えば叙述が表層に流れすぎているような気もする。例えば、この本を読む限りではルイスは「エロスの魔」と「詩才の女神」に繰られるままのあやつり人形のようにしか見えないが、果たして本当にそうだろうか。沓掛氏自身も書かれているように、ルイスはもっと多面的な人ではなかったろうか。それに、彼が作品を書けなくなった原因を「詩の女神が彼を見捨てた」の一言で片付けるのは、ちと乱暴のような気もする。また、「書痴ルイス」についてもっともっと突っ込んで書いてもらいたかった。