2020-01-01から1年間の記事一覧

元祖オレオレ詐欺

オレオレ詐欺の歴史は古い。旧約聖書によれば、モーセが神に「民にあなたの名を何とお伝えしましょうか」と聞くと、神は "I am what I am. (欽定訳では I am that I am)"と答えたそうだ(出エジプト記3:14)。この英訳は直訳すると「わたしはわたしであると…

『幻想と怪奇』3号

各所で話題騒然の『幻想と怪奇』3号を買ってきた。 巻頭80ページあまりの平井呈一特集は圧巻で、これだけでも十分にもとはとれるが、さらに圧巻なのはそれに続く短篇群である。実にみごとなアンソロジー(精華集)になっている。アンソロジーのテーマはいわ…

ディスプレイ用書籍

神保町の北澤書店がディスプレイ用書籍に力を入れ始めたという噂を聞いてさっそく行ってみた。ここの二階に足を運ぶのは何年ぶりだろう。いや何十年ぶりかもしれない。どうもあの威圧するような雰囲気が苦手なのである。大昔には店頭平台に特価本のコーナー…

本の雑誌9月号

北原尚彦さんが大活躍しているという噂の『本の雑誌』9月号を買ってきた。なるほど大活躍だ!国書刊行会、早川書房、東京創元社三社の中の人による座談会によると、国書の豆本等のプレゼントがあると真っ先に応募してくれるのが北原さんだそうだ。いつもあ…

後悔しない秘訣

昨日の日記で「いつなんどき変な圧力がかかって出版差し止めとか回収とかになるかもわからないから」と書いたが、これはすなわち、「あとで後悔しないよう今のうちに買っておく」という意味である。買って後悔するか、買わずに後悔するか、これは千古不易の…

超自然的恐怖原理主義者たちに抗して

巷で「ホラーより怖い」と人気大沸騰中なようなので自分も一本を贖った。いつなんどき変な圧力がかかって出版差し止めとか回収とかになるかもわからないから。 もしかすると超自然的恐怖原理主義者の方々から、「こんなものをホラーと呼ぶとは何事ぞ! 恐怖…

謎のDeepL

巷で噂のDeepL翻訳をちょっと使ってみた。 原文 Y hasta podría pensarse que lo más importante de esa obra, salvo que todo es importante, es - la amistad de Virgilio y de Dante; porque Dante sabe que él se salvará, y sabe que el otro está cond…

紙片は告発する

ディヴァインは好きな作家だ。社会思想社のミステリボックス時代にはよく読んだ。でも長いあいだ作者は女性かと思っていた。女性が視点人物になることが多いし、女性の心理描写に容赦がなく、また往々にしていかにも女性作家らしい結末で締めくくるから。実…

ライノクス殺人事件

シンプルなトリックを圧倒的なケレン味で包み込む、日本でいえば、『○○○○○○○○殺人事件』を連想させるような作品。ちなみに『○○○○○○○○殺人事件』は評価が真っ二つに分かれた問題作だが自分は傑作と思う。『ライノクス』もこれと同じくらいに、読者の目をくら…

探偵を捜せ!

有名な作品だが今回初めて読んだ。舞台は山の上に一軒だけ建つ山荘。その管理人は急用のため山荘を去り、客のウェザビー夫婦と小間使いだけが残された。ウェザビー夫人は遺産目当てに夫を殺してしまう。ところが夫は死ぬ直前に、探偵を雇ってここに来るよう…

水平線の男

何を隠そう、拙豚は還暦をとうに越えた爺である。いかに爺かというと、こんな ↓ 本が新刊書店で買えたほどの爺なのである。 これを買ったのは岡山の細謹舎という書店だ。今はもう跡形もないけれど、半世紀前は(丸善や紀伊国屋なんかのチェーン店を除けば)…

100%アリバイ

「異色作に名作なし」といわれる。どうにも褒めようがなくて困ったときは「問題作」とか「異色作」とか「この著者のファンなら必読」とか評してお茶を濁すものらしい。果たしてこの本の帯にも「異色作」と書いてある。「探偵小説の常識をくつがえす異色作」…

おうむの復讐

外出自粛をいい機会に、本の整理をぼちぼちと進めている。ただ面白そうな本が発掘されると読みふけってしまうので整理は遅々として進まない。むしろ散らかる一方ともいえよう。発掘された本の一冊がこれ ↓ 、アン・オースティンの『おうむの復讐』である。こ…

アトム式

むかしむかし、今は亡き安原顕氏が仕切っていたころのメタローグから『私の外国語上達法』という本が出ていた。その中でちょっと名を思い出せない英文学者の方が「アトム式」という方法を紹介していた。このアトムというのは例の鉄腕のではなくて学生社から…

『怪と幽』4号

怪と幽 vol.004 2020年5月 (カドカワムック 828)作者:京極 夏彦,小野 不由美,有栖川 有栖,恒川 光太郎,近藤 史恵,山白 朝子,荒俣 宏,小松 和彦,諸星 大二郎,高橋 葉介,波津 彬子,押切 蓮介,東 雅夫発売日: 2020/04/28メディア: ムック 『怪と幽』4号で荒蝦…

ロバート・フリップ「白鳥の湖」を踊る

ロバート・フリップ 「白鳥の湖」を踊る www.facebook.com ロバート・フリップ 薔薇の花をくわえてタンゴを踊る www.facebook.com ロバート・フリップ 蜜蜂になって走り回る www.facebook.com いずれもトーヤのフェイスブックより。amass.jp経由で知った。蜜…

アヤナミとぞうさん

戒厳令の中でも、わが家近くのブックオフは果敢に店を開け続けている。今日はそこで上 ↑ のようなCDを買った。クレジットによると1975年のレディングフェスティヴァルでの録音らしい。"Last Bundle"とはいうもののアラン・ホールズワースはもういなくてギタ…

小説がヘタなわけではない

ゴーレム (白水Uブックス)作者:グスタフ・マイリンク発売日: 2016/09/14メディア: Kindle版 念のため見たら白水Uブックスの『ゴーレム』も今は電子書籍でしか売っていない。しかしこの本は何度か版を重ねたのではなかったか。『ゴーレム』といい『ワルプルギ…

マイリンク品切増刷未定

国書刊行会のサイトで『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』がいつのまにか品切増刷未定になっておりました。ということはたぶん初刷分を売り切ったのだと思います。お買い上げくださった皆さん、ありがとうございます。 とはいえ、まだ取次には若干在…

少女とテレパシー

理由 (朝日文庫)作者:宮部 みゆき朝日新聞社Amazon 宮部みゆきから好きな作品を三作、と言われれば『火車』『理由』『模倣犯』それから別格として『ステップファーザー・ステップ』を挙げたい。たぶんこれは大方の評価とそんなに変わりはないだろうと思う。…

東京脱出!

コロナ禍のおかげで、今夕にも帝都に緊急事態宣言が出そうな気配である。そのあおりを喰ってか、東京脱出の動きがあるという。拙豚の故郷は例の一時間以上ゲームができない恐怖の県であって、帰ろうと思えば帰れないこともない。でも自宅にとどまるつもりで…

アンソロジーの終わりかた

怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)作者:G・アポリネール 他東京創元社Amazon 澁澤龍彦の編纂による『怪奇小説傑作集4』はアンソロジー史に残る名アンソロジーだと思う。と言うと一知半解の徒は「あれはカステックスのアンソロジーが種本…

ボルヘスとフォークランド紛争

年配の方はご存じだろうが、今から四十年ほど前、フォークランド紛争というものがあった。アルゼンチンの沖合にフォークランド諸島というちっぽけな島々があり、ここは昔から領有権がはっきりしていなかったようだ。というか、イギリスとアルゼンチン双方と…

紙ペーパー

拙豚が小学生のころ、図工の時間に「紙ペーパー」なるものを使っていた。と言うと、えっなにそれ? 紙ペーパーって要するにただの紙じゃないの? と皆さん疑問に思われるだろうが、当時はサンドペーパーのことをそう呼んでいた。「砂ペーパー」とも呼ばれて…

ポーと乱歩

日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集 (創元推理文庫)作者:江戸川 乱歩発売日: 1984/10/19メディア: 文庫 ポーといえば乱歩である。少なくとも日本では。その乱歩が、ポーのストーリーを自己流に料理してみたいと思っていたということが、たしか『探偵小説四十…

過去未来の文学

ラテン系の人たちは時間にルーズだというイメージがある。でもなぜかスペイン語やイタリア語の時制はやたらに複雑である。天下の奇観といっていい。むかしはラテン系の人たちも時間にきちょうめんだったのだろうか。それとも文法が煩雑なおかげでその反動が…

文学フリマ岩手開催なるか?

第五回文学フリマ岩手は6/21に予定されている。先日その事務局から出店料の支払案内が来た。サテこれは順調に開催されるだろうか。6月には自粛ブームもさすがに落ち着いていると思いたいが……。出店料の締め切りは3/30ということだ。ぎりぎりまで様子を見て危…

文学フリマ東京開催なるか?

ザ・ナイト・ウォッチアーティスト:キング・クリムゾン発売日: 2019/03/27メディア: CD パンデミック騒動のおかげで、5月6日に予定されている第三十回文学フリマ東京も雲行きが怪しくなってきた。おそらくキーとなるのはこれに先立って5月2~5日に予定されて…

ネクロノミコンはなかった

マドリッドのパリぺブックスなる版元が『ボルヘスの書棚』なる本を出したことをたまたま知り、すかさず注文した。 届いたのはかなりの大型本だ。どのくらい大きいかがわかるように隣に荒俣御大の『世界幻想作家事典』を置いてみた。『書物の宇宙誌―澁澤龍彦…

ぬか漬けのきゅうり

少女地獄 (夢野久作傑作集) (創元推理文庫)作者:夢野 久作東京創元社Amazon 吾妻ひでおの『アル中病棟』によると、アル中になった人の脳は、ぬか漬けのきゅうりが生のきゅうりに戻らないように、もとに戻ることはないのだという。アル中ならぬミステリ中毒の…